時計の針は3時48分。
さっき同じように時計を眺めてからまだ7分しか経っていない。
「はあぁ~」
時間の進みが遅いのはいつものことだ。つまりそれだけこの時間がつまらないと言うこと。人生というものは斯くも退屈だ。鳥であればこの青空を自由に羽ばたくことも出来たろう。
「何故俺は人間に生まれてきてしまったのだろう。なぁ長船くん」
「貴方が人間に生まれてきたいと願ったからじゃないですか」
「人間なんてつまらんものになりたいと俺が願うはずないじゃないか。俺は鳥になりたかった。そしてこんな狭い箱の中に押し込められるのではなくこの大空を自由に、」
「貴方が何に生まれようが僕は構いませんけど、今は仕事中です。仕事してください」
「今日も長船が冷たい~!」
隣の席のイケメンな後輩こと長船は、躾のなっていない子供を嘆くようにため息を吐く。ため息を吐くのは構わないがもう少し控えめにしてほしい。自分はこの会社に入って6年で、長船はまだ半年しか経っていない新入社員な訳だし。
そもそも他の人間に対しては「君は神様かなにかか?」と聞きたくなるくらい優しくて穏やかなのに、どうして自分に対してはこんなにも冷たいのだろう。
ぷるるると通常より高い電話の着信音が自分のデスクの上で鳴る。社内内線だと考える前に体は条件反射で既に受話器を耳に当てていた。
「はい、お疲れさまです。鶴丸です」
隣で長船がそれでいいのだと言いたげに頷いている。あれ、こいつ俺の上司だっけ、と心で首を傾げたのだが電話相手には当然伝わらなかった様だ。
冷たい指先はクリスマスイブに温まる
人生とは退屈だ。
鶴丸は幼い時分より自分のこれから生きる数十年の道のりを冷めた目で見つめていた。
何をしても楽しくない。何を食べても味気ない。やりたいこともない。これといった夢もない。趣味もない。好きなものもない。
まさにないない尽くしの人生を今まで歩いてきて、現在進行形で歩いている。
鶴丸はよく嘆く。
ああ!人間とはもっと楽しいものではなかったのか!何故俺は人間に生まれてきてしまったのか!
気分は悲劇の主人公である。足りないものはスポットライトくらいだ。
鶴丸は今日も狭い箱の中に詰められて目に悪い光を放つ箱の前に縛り付けられながら人生を浪費させられている。要するに会社でパソコンとにらめっこしながら仕事をしているのだ。
まったくつまらない。人生の無駄使いもいいところ。といっても他にやりたいこともないので、生活に必要な分の労働に時間を充てた方がまだマシだ。
と言うわけで鶴丸は嘆きながらも仕事を全うするわけである。
なんやかんやと仕事をこなしようやく終業時間の17時になった。
「よっし!!終わった!飲みに行こうぜ長船!!」
17時と同時にデスクに両手をついて勢い良く立ち上がり、隣でキーボードをカタカタ打ち続けている長船を見る。
「こら!いつまで仕事なんてしてるんだ君は!俺たちは自由なんだぞ!飲みに行くぞ、ほら!長船!」
「行きません」
「なんでだよ~!もう半年経つんだからいい加減行こうぜー!一回!試しに一回でいいから!」
「行、き、ま、せ、ん」
「いけずー!!」
長船は澄ました顔で鶴丸の誘いを両断する。この半年ずっとだ。一度も一緒に飲みに行ってくれない。
「おーい鶴丸ー!」
働く長船の横で駄々を捏ねていると少し離れたデスクから鶴丸の名を呼ぶ声がした。鶴丸達のこのやり取りも半年続いているので周りも慣れたものだ。
「飲みに行くけどお前も来るだろー」
「おー。行く行くー。丁度手品の新作を誰かに披露したいと思ってた所だ!」
「お前の手品盛り上がるから助かるわー」
その口振りにげぇ、また合コンかよ。と心の中でげんなりする。最近は事前の出席確認もしやしない。
不愉快さを表に出さず「新人の日誌確認してから帰るから下で待っててくれ」と誘ってきた相手をひとまず遠ざけた。「おー!先に下で待っとくなー」と相手がいなくなったのを確認してから、ようやく仕事に区切りをつけた長船をジト目で見る。
「君のせいで合コンに行くことになっちまったじゃないか」
「唇を尖らせないで下さい。いくつですか貴方。はい、日誌お願いします」
日誌を差し出され自分の席に座り直す。長船に拗ねた視線を合わせたまま。
「なー。何で一緒に飲みに行ってくれないんだよー」
「僕が行かなくても一緒に行ってくれる相手は沢山いるでしょう」
「おっ、なんだなんだ!ヤキモチか!?拗ねなくてもいいんだぜ?君が行くと言えば今からでも断るさ!っておいおい、何で立つんだ。何処に行く」
座った鶴丸とは反対に長船は静かに立ちデスク下に置いていたコート腕に掛け、鞄を手に取った。
「帰ります」
「何で!?」
「いつまで仕事してるんだと言ったのは貴方です。日誌、ちゃんと見てくださいね」
それじゃあ、となんの名残もなく去っていこうとするので鞄を引っ張る。長船はその行動を予測していたのか前につんのめることもなく、またもため息を吐きながら鶴丸を振り返った。長船の呆れ顔なんて超レア物だ。鶴丸以外に対しては。
「・・・・・・人と待ち合わせをしてるんです」
「半年間、毎日か。断る理由くらい新しく作れよ~。どんだけ俺の扱いが雑なんだよ」
鶴丸が誘うと、長船は人と待ち合わせをしている。と断る。最初はそれならば仕方がないと納得したが、この半年毎回同じ理由を並べられるとさすがに嘘だと分かる。
長船も長船で、嘘だとバレても良いと開き直ってるのだろう。
鞄を一向に離さない鶴丸に、今日何度目か分からないため息を吐いて長船はコートを持っていた手を腰に当てた。すらりとした高身長は立ち方も相俟ってモデルの様だ。
「僕を理由にしなくても、そんなに嫌なら行かなければいいでしょう」
「嫌なわけじゃない」
「退屈だ、つまらないって心の中で嘆きながら参加するなら一緒のことです。楽しいフリは疲れますよ」
呆れたように、ではなくどこか窘める口調は耳心地良い声のお陰で効果倍増だ。会社員ではなく教師とかになれば良かったのに。幼稚園の先生とか似合いそうだ。
「聞いてます?」
「聞いてます」
「でも行くんですよね」
「ああ」
やっぱりと言いたげな後輩は鶴丸のことをとても理解している。その事実と目の前のイケメンの微妙な表情にニッと笑い掛けた。
「人生は最悪に退屈だが、楽しいフリをする努力くらいしないとな」
何故人間に生まれてきてしまったのかと腑に落ちなくても、生まれてきたことを投げ出すつもりもなかった。でも人生は余りに長すぎる。面倒くさくても楽しいフリをしていれば多少時間の進みも早くはなる、と思っている。気休めではあるが。
「良いと思いますよ。どう生きるかなんて人それぞれですし」
長船は肩を竦める。なんて健気で前向きな考え方だと感激してもバチは当たらないのに。
「楽しいフリをしていればいつか本当に楽しくなるかもしれないですし、色んな交流を持てばいつか自分の人生を変える何かに巡り会うかもしれませんしね」
「おっ、この流れは?俺と飲みに行くっていう?」
「お疲れさまでした、また明日」
深々と礼をされた。鶴丸の扱いが雑な長船ではあるが、根は真面目で目上の者にはきちんと敬意を払う。先輩に対する終業の挨拶、これは長船の別れの意志だ。常ならば見ることの出来ない旋毛をみてしまうと、これ以上は引き留めることが出来ない。鶴丸は鞄を引いてた手を離し、体を長船からデスク側へと回転させた。
「へいへい。お疲れさん」
「今夜で貴方の人生から退屈の二文字が消えるよう願ってますよ」
「ないってわかってる癖にー。嫌みなやつー。じゃあな、気を付けて帰れよ。『待ち人』によろしく」
新人日誌を開きつつ、片手を挙げる。嫌みなのはどっちだ。待ち合わせが嘘だと分かっているのに、待ち人によろしく、などと。
しかし長船は何も言い返すことはなかった。その代わりぺこりと再度頭を下げて、去って行った。
途端に大人しくなる自分自身。一人で騒いでたら頭のおかしな人間だ。
職場の人間はまだ残っているが長船の様に自分から接触を持とうとは思わない。長船が帰ったのなら自分もさっさと終わらせよう。人も待たせていることだし。日誌に視線を落としながら、指はデスク引き出しの赤ペンを探る。
新人教育の一環で新入社員は毎日日誌を書いている。内容は今日習ったことや、処理した業務。質問や気になったことが書かれている。それを教育係が毎日チェックし、コメントや質問の返答を記入。更に上の上司に渡すという流れだ。
日誌には今日鶴丸が教えた仕事の内容が書かれていた。字は中々に達筆だ。字が綺麗だとこちらもちゃんとチェックする気になれる。逆もまた然りだが。
隣の教育係が今日も退屈だ、つまらないと愚痴を吐いていて鬱陶しかったです、とは一言も書かれていない。それだけで花丸をあげたくなる。書いてても面白いからあげるだろうけど。
ページは後10日を切っていた。日誌は半年分しかない。長船はここに入ってきてもう半年経つから日誌ももう卒業だ。
教育係でなくなる訳ではないが長船がここに来てから半年経つのか、としみじみなってしまう。もう半年なのか、まだ半年なのか。体感は自分でもはっきりしない。
退屈な人生謳歌中の鶴丸ではあるが、漸くひとつお気に入りが出来た。そう、新入社員の長船だ。
半年前、長船はこの会社に転職してきた。
6月の、雨が憂鬱な時期である。その日も退屈の暗雲を心に漂わせていた鶴丸の耳に、今日から新入社員がやってくるという報せが入った。新人の教育係を任せられることは事前に聞いていたし、別に初めてでもなかった。前に一度やったことをするのは退屈極まりないが任せられた業務に駄々を捏ねるほど子供ではない。給料をもらう以上、仕事は全うするのは当たり前だ。
ただ文句も言わないが興味もない、今まで通りやるべきことだけやって後は適当にやるつもりだった。だから課長の横にいた新人が、かなりのイケメンだったとしても『成程、さっきからやけに女性陣が騒がしかったわけだ』としか思わなかった。
課長にと話している新人は高身長でかなりの美形という圧の強い要素を持っていながら、穏やかな微笑みを携え物腰は柔らかに見えた。手の掛からないタイプの様だ。同時に、やはりこの退屈を晴らす存在にはならないなと思った。
ただしその新人が鶴丸の前に立つまでは。
課長に「君の教育係を紹介しよう」と連れられた長船は、鶴丸の顔を見るなり今まで浮かべていた優しい微笑みを瞬時に消した。その上、何も言わず立ち尽くす始末。
その反応に戸惑いつつも、緊張しているのかと気を使い「はじめまして、君の教育のに鶴丸だ。そんなに緊張しなくていいぜ」と切り出した瞬間、彼はぐっと何かを飲み込む顔をした。飲み込みたくない何かを。だが瞬時に微笑みを浮かべたものだから、その飲み込んだ正体を見破ることは出来なかった。
長船は人当たりの良さそうな笑顔のまま「ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします」と右手を差し出す。握手?と思いつつも応えないのも感じが悪い。「ああ、よろしくな」とその身長にみあった鶴丸よりも大きな右手を握った。
途端にぎゅうううと締め付けられる感覚。熱烈なファンでももっと控えめな力加減をするだろう。勿論、教育係に仕事のやる気を伝える為の強さの境界はとっくに越えている。
痛む右手に、もう一人の右手の持ち主を見上げる。にこにこと人の良い笑顔のままだった。
こ、こいつ・・・!
思わず心の中で声を上げた。なんて陰湿な男だ。課長の手前、下手に出ているが鶴丸に対して良くない物を抱いているのは右手の痛みから見ても明らかだった。
口の端がひきつらせながら、鶴丸も笑ってやる。右手に全力を込めて。
職場での冷えた人間関係は女性に多いと聞くが、実は男性同士でも少なくはない。鶴丸は運よく性格の歪んだ先輩や上司に当たったことはなかったが、まさか後輩で当たるとは。
とは言え、相手が上司だろうが後輩だろうが関係ない。そっちがその気なら受けてやろうではないか。どんな陰湿さを見せつけてくれるのか見ものである。この退屈な日々に驚きをもたらしてもらおう。
初対面の印象はそんな感じだ。
その後早速マンツーマンの指導が始まった訳だが。
業務の簡単な説明をしている時も、前の職場でどんなことをしていたのか聞いた時も第一印象最悪な後輩は何の性悪さを見せることはなかった。表情も態度も至極真面目で、仕事に対する姿勢はとても良く見えた。最初のあれは何だったのだろうかと内心首を捻るばかりだ。
ただ性悪や陰湿では決してないのだが、澄ました様には見えた。鶴丸の存在を自分の意識から外に追い出しているというか。
結局好かれていないことには変わりないが、少し肩透かしを食らった気分だった。
仕事は刺激を求める場所ではないし、と鶴丸が気を取り直し初日は筒がなく己の職務を全うした。
終業時間になり、結局朗らかな笑顔ひとつ見せないまま一日を終えた長船は「ありがとうございました。明日もよろしくお願いします」と鶴丸に向かって深々と頭を下げた。その頃には彼への興味をすっかりなくしていた鶴丸は、他の人間全員にするように、澄まし顔の後輩にも「お疲れさん。また明日な」と礼儀に従って笑い掛けた。そして、新人日誌の1ページ目に目を通すべく視線を下に落とした。
それで一日目は終了する、はずだった。けれど鶴丸の側に立っていた気配がいつまでも消えない。何を話しかけてくるわけでもなく。
長身、無言、美形、無表情、圧のビンゴであればリーチ中の後輩を数分も無視することも出来ない。回転椅子ごと体を向ける。
「どうした?なんか質問でもあるのか?」
立ってても身長差があるが、座った状態で見上げると首が痛い。改めて、でかいな、こいつ。という感想を抱きつつまだ黙っている長船の回答を、頬杖を突いて待った。
高いところにあった瞳は鶴丸を見下ろしていたが、それが一瞬だけ動く。迷い、の感情に見えた。
「そんなに、」
「んあ?」
「貴方の人生は退屈ですか。何をしても、つまらないですか」
長船は淡々とそう言った。あんぐりと口が開く。なんという不思議ちゃん。初対面から十時間も経っていない会社の先輩に、人生観を問うてくるとは。
こんな後輩に仕事を教えなければならないなんて難題だ。頭が痛い。憂鬱だ。
普通の教育係ならそう思うだろう。しかし、鶴丸は初対面から十時間経ってもいない会社の後輩から自分の人生観をずばりと言い当てられた側だ。
しかも今まで親にも同じ学舎で過ごした同級生にも現在進行形で付き合いのある会社の人間にも、悟られたことはなかったのに。
「すごいな!何で分かった!?」
素早く立ち上がり、美形に詰め寄った。足りない分の距離は背伸びをして。周りからどよめきがあったのは、口づけをする距離とあまり大差なかったからだろうと後から思い返して気づいた。
驚きと興味を抑えられない鶴丸の顔が長船の瞳に写っている。それがじとり、と細められた。
「貴方が非常に腹立たしい顔をしてるからです」
苛立たし気に吐かれた言葉に瞬く暇もなく、長い人差し指でトン、と左胸を押される。強い力ではないのに抗え切れない体が半歩下がってしまった。
その隙を見逃さなかった長船は、ドラマのワンシーンの如く鶴丸に背を向け
「お疲れさまでした」
と、何事もなかったかのように颯爽と帰っていった。
ポカンと静まる周囲の人間、そして鶴丸。
何だったのだろう、今のは。
そう思ったのは皆一緒だ。ただ、その後鶴丸だけは、右手で己の左胸を服の上から握りしめ、
「・・・・・・なんだあいつ。面白いじゃないか」
人生で初めての言葉ののち、ニヤリと笑ったのだった。
それから長船に構い続けて半年。長船は一向に懐いてくれない。鶴丸が退屈な人生を送っていると知っていて、つまらない毎日で珍しく興味を持っているのが長船だということも知っている癖に鶴丸と飲みにも行ってくれない。いけずな奴だ。
日誌をチェックし終わり待たせていた同僚と合流して、合コンの中、新作の手品を披露終えた所でようやく長船との回想を終えた。
鶴丸のジャケットのポケットから先ほど灰皿の上で燃えた筈のスペードの1を見てすごいすごいと拍手をしている女性陣の名前も全く頭に入っていないが何も問題はない。元々覚える気もないし。
名前も知らない女性陣達は鶴丸に今の手品はどうやったのか、どこで習ったのかなどを次々と聞いてくる。
口を開く前に鶴丸の隣の同僚が鶴丸の肩を自身に寄せる。
「あー、ダメダメこいつ狙っても無駄だよ。こいつホモだもん」
「悪い。最後の手品がまだだった。はい、今からこいつ消しまーす、この世から」
「いやいやいや!マジじゃん!お前長船大好きじゃん!」
これはこの同僚の手だ。鶴丸の手品を使い、場を盛り上げておきながら女性陣がそのまま鶴丸に流れない様に予防線を張る。
別に構わない。誘われたから来ただけでここにいる女性陣に興味がある訳じゃないし、同僚もそれを分かっている。手品の仕上がりは上々だったのでわりと満足だ。
「まぁ、このまま女になった君と長船のどちらを選ぶと聞かれた迷わず長船を選ぶが」
「ほらな!みんなこいつに惚れたらダメだよー。泣くことになるからねー」
女性陣の反応はネタとして受け取るのがほとんど、ドン引きが半々。稀に瞳を輝かせる女性もいる。一度長船との仲を質問攻めしてくる女性がいた。あれは予想外で少し驚いた。
その後も適度に場を温めつつ、次の店に行くことになった。ただ鶴丸はここで帰るが。
幹事である同僚が、誰もいなくなった座敷でまったり最後の一杯を飲んでいる鶴丸に近づいてきた。他のメンバーは次の店に行くため外で同僚を待っている。近くのダーツバーに行くのだとかなんとか。
近づいてきた同僚は鶴丸の隣にどかりと座り、肩に手を回してきた。
「サンキューな鶴丸。盛り上がったお陰で二次会までスムーズだったわ」
「そうかい」
「なんか今日、良い感じじゃないか?持ち帰りも出来そうだけど、お前今日もこねぇの?」
「ああ。手品が盛況だったからな。今日はもう良い。それに明日は用事があるんだ。夜更かし出来ないんでな」
「ふーん、そっか」
納得したのか興味がないのか。同僚は寄せていた鶴丸の肩をバシッと叩いて「じゃーな、また月曜」と両手をポケットに突っ込んで、店から週末の夜の街へと出ていった。
グラスを煽り切り、鶴丸も席を立つ。両手を組んで上へ延びをする。んあ"~と年より染みた声が出た。
「はーあ。俺も帰るかー」
二時間程いたのに自分の中には何も残っていない。良い感情も悪い感情も。今日も楽しいフリは功を奏さなかったらしい。
まぁ良い。いつものことだ。
長すぎる人生の時間を少しでも潰せたのならそれで十分。