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審神者「スーパーダーリンと呼ばれる彼の現状と理由について詳しく」


「光忠がスーパーダーリンって呼ばれる理由?そんなの挙げればキリがないんじゃないか。
 ああ、まず見た目だろう?高身長、体つき、顔、すべてが一級品だ。まさに作り物めいてる素晴らしさだな。付喪神という人外でなければありえない造形美と言ってもいい。まぁ、髪がぴょこんとしている部分もあるが、あれは愛嬌だ、きっと。
 あと、あの眼帯もまた野性味があって良い。光忠は自分の雰囲気と眼帯が相手に怖い印象を与えると悩んでいたが、俺は眼帯推奨だぜ。あの眼帯が光忠の美しさになんというかな、影というか味をつけているのさ。
 それに、とてもかっこいいじゃないか。男らしさを感じるよな、歴戦の剣士といった風で。つまり眼帯があることであれが増すんだ。あれだよ、あれ。あー、なんだっけな、ふぃ、ふぃれもん?違うな・・・・・・あっ、そう!フェロモン!そうそう、フェロモンというやつだ、フェロモン。そのフェロモンで男っぽさがぐっと上げる。俺は、あれがとてもいいと思うんだが。中性的ではない男の魅力というのはとてもダーリンっぽいだろう?
 服装もまた決まってるよな。黒い服がとてもよく似合っている。全体的に黒くて威圧感があるからこそ光忠の微笑みがきらきら輝くと、分かってやっているならまったくもって恐ろしい男と言わざるを得ない。ん、見た目の話ばかりしているがもちろんそれだけではないぜ?強さ・・・・・・はもう言うまでもないな。『光忠さんはうちの最強太刀』っていうのは主、君の言葉だ。君がそう理解しているなら俺が言うべきことは何もない。
 ならば、そうだな、最近あった出来事を教えよう。この間、俺の仕掛けたおちゃめな悪戯が長谷部に見つかって、逃げていた時のことだ。足では長谷部に敵わないからな、それならばと奴に見つからないように隠れていたんだ。
 物置の裏に潜んでやり過ごすつもりだったんだが、長谷部の嗅覚は俺を嗅ぎ付けた。まったくもって怖い奴だよ。俺が、もうだめだ見つかる!と思ったとき、天は、光忠は俺を見放さなかった。『鶴丸さん、こっちだよ』うーん、光忠の物真似は難しいな。練習しておくか。声が聞こえると同時に手を引かれたんだ。なんだと聞く間もなく少し暗い方へと連れていかれたのさ。『少し、静かにね』光忠はそう言って、俺を抱き締めたわけだ!何事だと思うだろう!?目を白黒させる俺をよそに光忠は涼しい顔だ。
 そこに長谷部が近づく、二重の意味で高鳴る鼓動、死にかける俺!しばらく生死の間をさ迷っていたが結局長谷部は俺達に気づかず、去っていった。俺達がいた場所は死角になっていたみたいでな、最初俺が隠れていた所だったら見つかっていたかもしれん。
 長谷部が去っていったことでホッと息つく俺の額を、体を離した光忠が指で突いて『長谷部くん、今日は機嫌がよくないからね。僕が代わりにお説教。鶴丸さん、悪戯もほどほどに。少しくらいはいいと思うけど、何事もやりすぎはよくないよ。あんまり酷いようなら、』と怖い顔をして言葉を切った。これは、殴られるとその時本気で思ったぜ、俺は。光忠の怖い顔は本当に怖いからな。思わず震え上がる俺の耳元に口を寄せて光忠はこう言ったんだ『お仕置き、しちゃうよ?』
 むしろ、お仕置きしてくれと!!!全力で悪戯するからどうかお仕置きしてくださいと!!思わず叫びそうになったぜ!!なんだあれ、あの声ほんとやばいな。鼓膜にまとわりつくような声だぞ。ねっとりと舐められてるようなそんな声だ、君も一度囁いてもらえばいい。俺の言うことがわかるはずだ。
 他には、そうだな、先日ついつい飲みすぎて、ちょっと酔っぱらってしまったんだが。酔っぱらうと歩くのが急に難しくなるよな。本人は真っ直ぐ歩いてるつもりなんだぜ?千鳥足って奴だ、俺は鶴だけどな!いや、なんでもない、聞き流してくれ。それで、なんだったか、ああ、そうそれで、歩くのが覚束ない俺に光忠がスッと近寄って来て、俺の腰を抱くんだよ。あまりの然り気無さに最初は何にも気づかなかったんだが、光忠は酔っぱらった俺を、あー、エスコート?してたんだな。扉開けてくれたり、『足元気を付けて』って囁いたり、俺がもたついても焦らず待っていてくれたり、素晴らしいエスコートだったよ。その証拠に気づいたら布団の上だった。
 ・・・・・・なんだあの手腕!!どう考えてもそのままいただきますって奴だろ俺知ってる!!俺が生娘なら、やだなにこの状況、全然怖くないよぉ、ううん、むしろ素敵、ああお願い、抱いて!!ってなる所だ!ときめくだろ、ときめくよな!?俺だって、もう胸がきゅんきゅんしっぱなしだった!光忠に据え膳自己生産自己処理男という称号を与えるべきだな。据え膳俺だけど。
 ところがどっこい!光忠はな『おやすみ、いい夢を』って俺の髪を優しく撫でて部屋を出て行こうとするんだよ。この据え膳に箸もつけないで。この、究極の!絶品料理を!つまみ食いもしないで!信じられるか!?しかし、こうも考えた。逆に、あいつは、俺を、生娘にしようと、してるんだ、そうに違いないと!一方的に食べられる膳ではなく、人の娘に!!だって若干なりかけた、光忠に純潔を捧げる娘になりかけた。
 スーパーダーリン怖い。刀な男をただの娘に変えるとか怖すぎる。君は恐ろしい男を降ろしてしまったなぁ。かっこいいし、男らしいし、強いし、優しいし、色気もあるし、要領もいいし、声もいいし、よく働くし、おまけに料理も上手い、ほぼ完璧。出来すぎだ。まぁ、以上の点だけでも光忠はスーパーダーリンって奴だと思うぜ。詳しいどころか簡単な説明になってしまったが、わかったかい?主」

 長々と光忠のスーパーダーリンたる理由を説明していた鶴丸が、そこでようやく言葉を切った。余りの流暢さに途中で言葉を挟むことなどできなかった審神者は何分ぶりかに口を開く。

「・・・・・・鶴じい、ごめん。熱弁振るってもらってなんなんだけど、日本語って難しいよね。私が聞きたいのは『スーパーダーリンと呼ばれる』光忠さんの『現状理由』じゃなくてね、スーパーダーリンと呼ばれる『光忠さん』の『現状理由』が聞きたかったの。わかりにくくてごめんね。えっと、わかりやすく言うよ。鶴じい、何で光忠さん今日急遽お休みになったのかな?何で鶴じいの部屋、布団から動けないのかな?私の、ううん私達みんなのときめきスーパーダーリン、いったいどうしたのかな?」

 今日は朝から光忠を見ていない。審神者の大好きな光忠だ。永久近侍に指名されている彼は、どんな時も審神者を支えてくれている。彼の朝一番の仕事は、審神者を優しく起こすことだ。しかし、今日はそれがなかった。今日審神者を起こしにきたのは清光だった。清光が来たことが不満ではない、しかし何故光忠ではないのか、それが不思議でしかたがない審神者は清光に聞いた。光忠はどうしたのかと。そうして返ってきた答えはこうだ。光忠は鶴丸の部屋から出られない。もっと言えば、布団の中から。

なんじゃそりゃあ。

 嫌な予感がして、審神者は鶴丸を呼び出した。そうして聞いたのだ。私のスーパーダーリン光忠さんどうしたの?と。彼がいない今の状況の理由を教えてと、そういう意味で質問をした。言い方が回りくどかったせいで、光忠のスーパーダーリン話を語られてしまい、時間を無駄にしてしまったが。鶴丸に言われるまでもなく光忠が最高のスーパーダーリンなんてことはこの審神者が一番よく知っているのだ。
 優しく聞いた審神者に対して、お茶を飲み干した鶴丸がにこっと笑いかける。可憐な少女の様な微笑みだ。とても可愛らしいが、男らしい男が好きな審神者の趣味ではない。
 審神者の目の前の少女のようなその神は、形のよい唇を開いて言った。

「ああ、そういうことか。それならもっと簡単に答えられるぞ。『どれだけスーパーダーリンであろうとも、光忠が光忠で有る限り俺の嫁だから』だ!!今の光忠の状況にそれ以上の理由を求めるのは野暮ってもんだぜ?」
「やっぱいか!!!スパダリ雌堕としの罪で、鶴じい有罪!!!!ギルティじゃあ!!!おまんさぁ、貴重なスーパーダーリンに何しちょっと!!今や純粋なスーパーダーリンは絶滅危惧種じゃが!ホモは百歩譲ってまだ、よか!じゃっどん、そいを、なんごちや!?雌堕としじゃあ!!??こげな、情状酌量の余地なしよ!!!!よって打ち首獄門!」
「打ち首!」
「打ち首!」
「行けぃ、やっさだ!二代目!!その鶴じい、綺麗な紅白に仕立てやらんね!!チェストおー!!!」

 審神者は霊力を爆発させながら吠えた。もう何年も帰れていない故郷の言葉が撒き散らされたが、そんなことはどうでもよかった。打ち首という単語に反応し、召喚に応じた二振りを鶴丸へとけしかける。レベル100を超えた審神者の霊力をいつもの何倍も注がれている二振りは通常より、強くなっているはずだ。その証拠に、繰り出された煌めきは風より早い。
 キンッ!と鋭い音がした。鶴丸の首を正確に狙った二振りの刀を、鶴丸が自身の本体で防いだのだ。

「キィワードで二振りの心を縛るなんて、ずいぶんえぐいことをするじゃないか。ん?」
「ば、バカ、な。この二振りの攻撃を防いだ、だと?」
「だがな、心が縛られた刀ってのは刃が鈍っちまうもんなんだぜ?例え、どれだけ霊力を注ぎ込まれても、な。覚えておきな」

 思わず標準語に戻り呆然と呟く審神者に、刀の向こうで鶴丸がにやりと笑う。先ほどその笑みを少女ようだと称したバカは誰だ。そいつに怒鳴りたくなる。何が可憐な少女なものか。今審神者を見ている鶴丸は、間違いなく男、雄だ。しかも、とびきり強い、獣のような。
 審神者に心を縛られた二振りが鶴丸から離れる。急ごしらえで受け取り箱から召喚した二振りだ、レベルがカンストしている鶴丸の神気に負けたのだろう。元からこの本丸にいた二振りは審神者からの召喚要請を、何やってるんだい君たちは。と一蹴したのだから仕方がなかった。

「くそっ!」
「はは、俺に挑もうなんて百年早い!スーパーダーリンのダーリンは超スーパーダーリンってところを見せてやるぜ!」
「っあ、遊びはここまでさ!今からが本気だ!」
「おいおい、声が震えているぜ?これだからたかだかレベルが100超えたくらいのひよっこは・・・・・・。己と相手の力の差っていうのもわからないんじゃ救いようがないな。しかしまぁ、若者を育てるのも年長者の勤め。仕方ない、胸を貸してやるか。さぁ、どっからでもかかってきな!!」
「ふ、ふざけるなああああ!」

 審神者は激昂した。腰を落とし、両手を構える。そしてその両手の中心へと霊力を流し込んでいく。審神者だけに許された究極奥義を繰り出そうというのだ。怒りで増した力は、禍々しい色で審神者の意思に答えた。
 いける、この力ならば!審神者は確信する。刀が駄目ならば霊力でねじ伏せればいい。神と言うが、それがなんだと言うのか。力、力こそが正義なのだ。力があれば、みんなを守れる。そう、教えてくれたのは強い打撃力持って審神者を守ってくれていた彼だ。彼の為にもこの男に負けることは許されない。


ああ、光忠さん。そこから審神者を見守っていてね。

「これは布団の中で泣いている光忠の分だああああ!!!くらええええええ!!」

 そして、審神者の両手から光が放たれた。もはや刀を構えてもいない、鶴丸へと。そして――

 

「ってことがあったよね」
「嘘だろ!?」
「ああ、あったな。確かにあった。懐かしいなぁ。あのひよっこが今やレベル300の審神者様か。月日が経つのはあっという間だ」
「やだ鶴じい、ほんとにじじくさいよぉ。光忠さんもじじくさいダーリンなんて嫌だよねぇ」
「光忠はじじくさくても俺のこと好きだからいいのさ。なー、光忠?」
「え?え?あ、うん。好き、だけど」
「やだーあ。当てられちゃったあ!審神者やってられなあい!」

 はははは!!と審神者と鶴丸の哄笑が部屋を満たした。どこまでが本当で、どこからが嘘なのかわからない光忠は一人頭にハテナを並べている。
 部屋の隅で、動物図鑑を眺めていた大倶利伽羅が笑い声に誘われるように顔をあげた。そして、誰にも届かない声で、しかしはっきりと呟いた。

「茶番だな」

 ごもっとも。

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